円山—淡紅の瓔珞

花明り

1968(昭和43)年/株式会社大和證券グループ本社

 花は紺青に暮れた東山を背景に、繚乱と咲き匂っている。この一株のしだれ桜に、京の春の豪華を聚(あつ)め尽くしたかのように。

 枝々は数知れぬ淡紅の瓔珞(ようらく)を下げ、地上には一片の落花も無い。

 山の頂が明るむ。月がわずかに覗き出る。丸い大きな月。静かに古代紫の空に浮かび上がる。

 花はいま月を見上げる。

 月も花を見る。

 桜樹を巡る地上のすべて、ぼんぼりの灯り、篝火(かがりび)の焔、人々の雑踏、それらは跡かたもなく消え去って、月と花だけの天地となる。

 

(東山魁夷『京洛四季/新潮社』より)

 

花明り
東山魁夷記念一般財団法人
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